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Selfishly

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ACT 2 「動き出す歯車」


at the Truth in the Mirror Image


ACT 2 「動き出す歯車」
              H18,7/17 19:30



見た事もない姿だった・・・。

あいつは、いつも 嫌になる位自信満々で
余裕を振りかざす 嫌な大人で、皮肉屋で
ちっとも、弱みを見せる事も
 哀しみを分ける事もなく・・・。

いつも、孤独(ひとり)で悠悠と歩いていた。

だから、あいつのはずがない。
そう思うのに、何故か 被さって見えた。

この世界の この男のしょぼくれて弱った姿が。




act 2 『 動き出す歯車 』


「あっ、お帰り兄さん。

 遅かったね、どこに行ってたの?」

色とりどりの花の競演の中を、
それに負けない明るい笑顔を向けてくる。

「ん、ちょっと迷子を見つけたから。」

「そう。
 無事に送り届けれたの?」

よいしょっと、抱えていた水の入った大振りのバケツを置きながら
兄らしい行動に微笑みながら、話の続きを聞いてやる。

「うん・・・、まぁ 多分・・・。」

歯切れの悪い兄の返事に、アルフォンスは 不思議に思いながら
兄の方を向く。

「多分?
 兄さん、家まで送り届けたんじゃなかったの?」

「いや。
 家ってわけじゃなかったようなんで、
 取り合えず、俺が出来る事だけして帰った。」

なにやら、迷い子を送ったにしては妙な言い回しが気になったが、
自分達も この世界に慣れているわけでもないので
わかるところまで案内したと言う事だろうと納得し、
アルフォンスは 話を切り替える。

「そう。

 あっ、そうだ。
 兄さん、グレイシアさんが 今日はシチューを作るから
 一緒に食事をって言ってくれてるんだ。」

「え、マジ?
 ラッキー! グレイシアさんのシチューって上手いんだよなー。」

喜色満面な笑顔を浮かべて喜んでいる兄の姿を見て、
アルフォンスも嬉しそうに頷く。
最近、やっと笑顔を見せるようになった兄の様子に
アルフォンスは ホッとしていた。
今日は 特に機嫌が良いようにみえる。
塞ぎこんでいてはと、気分転換に グレイシアさんのお使いを兄に行かせたのは
正解だったようだ。
普段、足を運んだ事がないような地区だったが
旅慣れている二人には さして困る事もない。
良い気分転換になったのだと、自分の考えが当った事を素直に喜んだ。



「まだ、見つからないのか ヒューズ。」

せかせかと部屋に入り込んでは、いきなり突っかかる相手にも
ヒューズは のんびりとした態度を崩さない。

「んだよ、お前。
 まだ、1週間とたっちゃいないだろうが。

 名前しかわからねえ相手を探すんだから、
 それ相応の時間がかかっても・・・。」

ヒューズが 最後まで話し終えるまで待たずに
ロイは 目の前に指をかざす。

「9日間だ。

 お前に探索を頼んでから。」

そうだったかな~と髭を生やした顎をポリポリと掻きながら
惚けた表情で返事を返す相手を、
ロイはひと睨みする。

相手の態度には 全く気にせず、ヒューズは淡々と結果報告を読み上げていく。

「名前は エドワード・エルリック。
 身長 推定170cm未満。
 年齢も 推定 15~18歳。
 容姿の特徴は 金髪金目で、容姿端麗っと。

 この名前で この国に入ってる他国の者は 現在いない。
 過去数年に遡って入国者のデーターを調べても出てこねえ。
 2世とかの在籍者に関しても、戸籍も住民票も届けなし。

 名前が違っている事も考慮して、別方面からも調べてみちゃいるが
 こんだけの特徴を持つ少年なら ひっかかりそうなもんだが
 全く浮かんでこねえ。

 今は お前が逢ったっていう地区に人をやって
 聞き込みさせてるが、どうもあの地区の住人じゃないようだな。
 お前が言うとうりの容姿の良さで覚えている人間には
 事欠かなかったが、彼を誰か 解る奴がいなかった。」

う~んと顎に手をやって首を捻るヒューズの様子からは
彼自身も 困惑しているのが見て取れる。

ロイは はぁ~とため息をつきながら
椅子に力なく身体を投げ出す。

(すぐに見つけれると思ったんだがな・・・。)
あれだけの特徴を持つ青年だ。
ロイの力を使えば、すぐにでも見つけれると高を括って
後を追わなかった自分を後悔する。

ヒューズは 惚けた人間だが、優秀なのは間違いない。
国に起きた事件の後、警官を止めたのを幸いと
友人のロイが 自分の会社に誘ったのだ。
今は ロイの下で 情報部の室長を務めている。
この部門も、ロイが 引き継いだ時にはなかった部門だ。
ロイが、今後の世界情勢を考えて設立し、
現在は ロイの直属の部門として動いている。

「しっかし、珍しいよな。
 お前が そんなに人に必死になるなんてよ。」

にやにやとからかうように笑っているメガネの奥の瞳には
優しい色が浮かんでいる。

「惚れたか?」

にやにや笑いを止めずに そんな事を言ってくる友人の顔を
ロイは渋面を作って見返して、短く反論を返す。

「相手は 男だと言ったはずだが。」

「おうよ。
 俺様もさすがに それには驚いたが。
 心配するな。
 俺は そんな些細な事を気にする人間じゃないぜ。
 
 愛は偉大だ!」
力瘤を握り締めて力説を唱える親友の顔を
あきれて あきらめたような複雑な表情で眺める。

「お前は気にしないかもしれないが、
 私は 気になる。

 彼は、有能な人材になりそうだから探すんだ。
 くだらん事を言ってる暇があるなら、
 さっさと探索網を広げる事だな。

 1ヶ月以内に見つからない場合は、
 この部署も考えるぞ。」

余り利きそうもない脅しの言葉を吐きながら
ロイは めんどくさそうに立ち上がり、部屋から出て行く。
その背中に、「はいはい。」と気のない返事を返しながら
ヒューズは 笑いを堪えながら胸の中で呟く。

『全く~、天邪鬼な奴だ。
 興味がある、気が惹かれている事を現すのが
 そ~んなに嫌なもんかねー。
 
 なんとも思ってない人間には、どこまでも愛想良く
 振舞えるってのによぉ。』

不器用な親友の先行きを やや心配半分、からかいのねた半分を
含ませながら 思いを馳せる。

『まぁ、あいつが 珍しく興味を持った人間だ。
 友人として 頑張ってやりますか。』




「えっ、アメリカに渡る?」

向かい合って座り、新聞に目を通していたアルフォンスが
兄の言葉に 驚いて繰り返す。

「ああ、いつまでも ここに居ても仕方ないだろう?
 やっぱ、ちょっと情報を持つ人間に力を貸してもらう必要性がある。」

エドワードは、今日も天気の良い外を 窓越しに眺める。

「情報を持つ人って・・・、
 兄さんが 話してたラングさん?」

「ああ、少なくとも俺らよりは 色々な方面に顔が利くしな。
 以前にも、一緒に行かないかと誘われてもいたし。」

そこで、エドワードは 持っていた封筒を見せる。

「んで、連絡したら返事が来た。
 向こうは OKだそうだ。
 手配も済ませてくれるそうなんで、
 ちょっと出かけてこようかと・・・。」

最後まで言わせずに、アルフォンスが口を挟む。

「もちろん、僕も行くよ。
 
 兄さんが考えた事は、反対しないから
 アメリカに渡るのも良いと思う。
 
 確かに 僕らじゃ、どうしようもない事だらけだけだもんね。

 でも、僕も付いていくのは絶対だよ。」

どう説得しようかと、困ったように見るエドワードに
アルフォンスは、真剣な表情で兄を見返す。
この兄は、何か事あるごとに アルフォンスには危ない事に
近寄らないようにさせる癖がある。
アルフォンスは、その度に また兄に置いていかれる恐れを抱いている。

いつになったら、一人ではなくて 二人で一緒にと考えてくれるのだろう。
いつもいつも、自分一人で考えて答えを出して行動する。
自分は その度に置いていかれ、姿の見えぬ兄を探す事になる。
2度と逢えないのではないかという恐怖を抱えて過ごすよりは
常に二人で動いているほうが、危険はあっても 数倍マシだ。
兄を見つめる瞳に、強い意志を宿して引かない姿勢を見せる。

二人の睨みあいは、最初から気迫で負けていた エドワードのため息で
終わりを告げる。

「・・・そう言うと思って、
 ちゃんと お前の分も手配してもらえるように頼んでる。」

あきらめ混じりに返された言葉に、アルフォンスは 安堵と喜びを浮かべる。

「そうこなくっちゃ!

 じゃぁ、急いで出発の準備をしないとね。
 いつ出かけるの?」

うきうきしたアルフォンスの様子とは裏腹に
エドワードは 渋々、口を開く。

「ああ、どちらにしても ここは引き払う事になるだろうから
 その片付けもしなくちゃいけないし、
 1週間後位を考えてる。」

「OK。
 忙しくなるね。」

読んでいた新聞を さっさと折りたたむと、
アルフォンスは 片付ける段取りを組むようにして
部屋を見回す。
ここを引き払うのが寂しくないと言えば嘘になるが、
そう思っている事を少しでも見せると、
ここで待ってくれていれば引き払わなくて済むと言われるのは
考えなくてもわかる事なので、
アルフォンスは 殊更、明るく、乗り気を示して行動を取る。

「あっ、でも ここを離れることは
 グレイシアさんには言わなくちゃね。」

「そうだな。
 世話になりっぱなしだったから、
 きちんと挨拶しておきたいし。」

「今日の店の手伝いが終わったら話そうか?」

「ああ、俺も一緒に挨拶するよ。
 それまでに、ここの物の引き取り手を捜さないとな。
 少しでも 旅費の足しになるように
 大家さんに頼んでみるか。」

「うん、じゃぁ それが終わったら店でね。」

「おう。」

二人は それぞれの分担をわけるべく行動を始める。
行動するときの二人のコンビネーションの良さは
変らず顕在だ。


外では、今日1日の快晴が保障されたような朝が始まっている。
兄弟二人が動き出すのを祝福しているような天候は
運命の歯車も ゆっくりと動かしていく。




「んで、お前がなんで一緒に来るわけ?」

ヒューズは、迷惑と言うよりは 嫌そうな表情で隣に座る男をみる。

「それは、お前が なかなか エドワードを見つけられないからだ。」

「ってもな~、兎に角 範囲は広げて探索は続けてるんだよ!

 唯一の手懸りってのが、 どうやら そのエドワードって奴が寄った店ってのが
 園芸関係の卸を扱う店って事で、その方面で探索しようかと。」

「で、何故 お前自身が わざわざ 知り合いの店に
 話を窺いに行くわけだ?

 そんな事は わざわざ、聞きに行く時間を割かなくとも
 調べれる事だろうが。」

「いや・・・、それはその・・・。
 まぁ、知り合いなんだから 自分が顔を出して聞くってのが
 礼儀にかなってるとか思ってだな~。」

しどろもどろ言い訳をするヒューズの顔を
ロイは、意地悪く見る。

「知り合いではなくて、懸想している女性だろう?」

「・・・!」真っ赤になって口ごもるヒューズを見ながら
ロイは してやったりと笑う。

「んだよ・・・、
 知ってたんなら 付いてくるなよ。
 邪魔者だろうが。」

フンとそっぽを向く男に、ロイは クックックッと忍び笑いを響かす。

「まぁ、お前の惚れている女性を紹介してもらうのも
 気分転換の役には立つしな。

 少々、煮詰まり気味だしな・・・。」

最後の方は、独り言のように呟かれて消えていく。

ヒューズは、滅多な事で弱音を吐かない友が
珍しくも吐く弱音に、おやっと首を傾げる。

『たかが、一人の人間のせいで こいつが弱るとはな。
 どうやら、俺が 言った事は まんざら、ふざけた事でもなかったって事か。』


車が 目指す店の前に来ると、ヒューズは ロイに絶対に車から出るなよと
念を押して降りていく。
若かりし頃から、ロイには痛い思いを何度かさせられている仲間の
姿をみているだけあって、慎重にもなる。
しつこく念を押すヒューズの言葉にも
さして気を向けるでもなく 適当に相槌を打って
ぼんやりと周辺を見回している。
友人の好きな人を 本気で紹介してもらいたいと願っている人間の姿ではない。
ヒューズは、そんなロイを見て
やれやれとため息をつきながら 車から離れていく。

「グレイシア、久しぶりだね。」
やや緊張気味に 中で忙しそうに働いている女性に声をかける。

「あらっ、お久しぶりです、 お巡りさん。

 あっごめんなさい、もう 警官はお辞めになったんですよね。」

驚いたように振り向いた後、
以前と変わらぬ優しい微笑を向けて、ヒューズに挨拶を返す。
その笑顔に、デレデレと鼻の下を伸ばしているヒューズが
彼女の近況を窺っていく。


その様子を車中から、面白くも無さそうに窺っている。
『なんだ、ヒューズの片思いばかりでもないようだな。』
ロイの目から見ても、その優しそうな女性が
ヒューズに好感を持っている事は見てわかる。
ロイは 興味を失ったように、その風景から目を離そうとした時。


「グレイシアさん、これは どこに置いたらいいですか?」

店の置くから、箱を抱えた少年が 顔を見せた。
ヒューズの所からは、柱があって見えないが
お手伝いの子供がいたのだろう。

「あら、アル ありがとう。
 それは もうじき引き取りの方が来られるから
 店頭に出しておいてくれるかしら。」

そうグレイシアが返事をすると、
少年は 愛想良く返事をして 柱をはさんで横切って店頭に出てくる。

その少年の後姿を何気なく見たヒューズは、
思わず 声を上げて、少年を呼ぼうとした。

「あれっ、君は・・・。」

ロイの探し人に似ている人物の登場に、思わずヒューズも声を出す。
後を追って、話しかけようとしたヒューズよりさらに早く
止まっていた車から、扉を乱暴に開いて出てくるロイの姿が見えた。

「君、君は!」

ロイは店前まで足早に近づいては、その少年の傍に寄る。

急に 声を上げて近づいてきた人物を見た少年は
ロイの顔を見ると 驚きの表情を浮かべている。
その表情は、不審者に声をかけられたという訝しさ以上のものが
顔に ありありと浮かんでいる。

「・・・大佐。」
ロイの顔を じっと凝視している少年が、思わずと言ったように言葉をつぶやくが、
ロイには はっきりとは聞き取れなかった。

「ロイ。」
少年の後を追いかけてきたヒューズが姿を現す。

少年は、後ろからやってきた人物を見ては
さらに、驚いた顔をしては 二人の顔を交互に見合わせる。
そして、おかしな事に 嬉しそうに微笑んでは 二人を代わる代わるみる。

「ロイ、この少年か?」
 
ヒューズは、ロイの傍に来ると そう聞いてくる。
ロイは 首を振りながら、「違う」と答えるが
視線は その少年から離れない。

その少年は、確かにロイが 探していた人物に似通っている。
髪は やや栗色が混ざる色で、瞳も 金色というよりは
穏やかな はしばみ色だ。
表情や 様子も、あの時エドワードから感じた
老成した雰囲気はなく、明るく、健康的な子供らしい様子だ。

(だが・・・。)

「君、君の名前は・・・。」

自分の名を名乗る前に相手の名前を聞くと言う
ロイの無作法にも、少年は気にした風でもなく答えてくる。

「アルフォンスです。
 アルフォンス・エルリックって言います。
 
 えっ~と、ロイさんと ヒューズさん?」

合ってるかな?と言う風に 小首を傾げて 
ロイとヒューズの名前を言う少年に
驚く間もなく、二人して 声を上げる。

「エルリック!

 じゃあ、エドワード・エルリックは!?」

驚いて声を上げる大人二人にも、アルフォンスは動じた風もなく、
ニッコリと笑いながら 返事を返す。

「ええ、エドワード・エルリックは 僕の兄です。」

ロイとヒューズは、まるで狐につままれたような表情で
互いに顔を見合わせる。
アルフォンスと名乗った少年は、
そんな おかしな大人の態度にも、にこやかな笑顔を崩さず
二人が驚きから冷めるまで 待っていた。





「ただいま~、アル 戻ったぞ。」

思ったより遅くなったエドワードが、
閉まってしまった店を通り過ぎて部屋に戻ってきた。

「お帰り、兄さん。」

返事の聞こえる部屋に向かって、扉を空けて中に入ると、


「な、なんだよ。
 なんで、あんたが ここに居るんだ!」

エドワードの驚きの声で、部屋が充満した。



その後、沈黙のまま 相手の顔をじっと見続けると
いう事が、先ほどから この部屋のテーブル越しに行われている。

特にエドワードは、ヒューズの姿を認めると
泣きそうな表情を浮かべたかと思うと、嬉しそうに微笑んだ。
その表情が、余りにも切なそうに見えて
ロイもヒューズも、声をかけそびれてしまった。

「んで、あんたらが 揃って、俺に何のようなわけ?」

静寂の口火を切ったのは、だいぶんと落ち着いたのか
エドワードだった。

そして、エドワードに そう問われると
聞かれた二人は、はてなと互いを見合す。

「いやっ、俺は こいつに探すように頼まれてだな・・・。
 理由は なんだったかな?」

とヒューズが ロイを見ると、
ロイも はたっと考え込む。

『理由・・・。
 何故かと言われても、探さなくてはと思っただけで・・・。

 ただ・・・、逢わなくてはと
 嫌、違うな・・・、逢いたいと思っただ。』

見つけようと必死になりすぎて、
何故 そこまでして探すのかを考えてもみなかったが、
理由は 簡単だった。
そう、もう1度逢いたかったからだ。
この不思議な青年に。
どん底に落ち込んでいたロイを、軽く笑って引っ張りあげてくれた、
良く知っているようで、全く知らないこの少年に、
ロイは ただ もう1度逢いたかった。
そうすれば、何か答えが見つかるとでも言うように。

戸惑っているロイを、訝しげに見つめる少年達の様子に
ヒューズは拙いと、黙り込んだロイの代わりに返事をする。

「あっあ、そうだ そうだったよ。
 なぁ、ロイ。
 スカウトに来たんだよな?」

ヒューズに 肘で小突かれて返事を求められたロイが
はっと考えから抜け出して、慌てて相槌を打つ。

「あっああ・・、そう、そうなんだ。
 私の会社に 優秀な人材を探していてね。
 それで、君に会いたいと思ってたんだ。」

「スカウト~?」

「優秀な人材って・・・、兄さん 何かしたの?」

唐突な大人の話に、疑わしそうに首を捻る。

「いんや~、何もしてない。
 
 ってか、何の会社なわけ?」
あやしげな物を見ているような視線に、
ロイは 少々、落ち込んで 財団の名を上げる。

「あ、僕 その名前聞いたことがあるよ!」
アルフォンスが 驚いたように声を上げる。

「確か、宇宙に出るロケットから、
 赤ん坊のオムツまでってキャッチフレーズで
 手広くやっているとこだよな。」

兄弟が 頷きあっているのに、少々 気を良くしたロイが頷く。

「な~るほど、要するに あんたが以前話していた
 にわか社長になった会社が そこだったわけだ。」

嫌味を言うつもりではなく、エドワードは 素直に感心してみせた。
もう一人の この男も平凡とはいえない人間だったが、
こちらでも 非凡な人生を歩んでいるわけだ。
どこに居ても、苦労を背負い込むのが好きなんだなと
妙な同情心を抱く。

「まぁ、そうなんだが、
 それで こいつには まだ信頼できる部下ってのが少なくてさ、
 で、いい奴を探しては スカウトしてるってわけ。
 
 まぁ、俺も その口だしな。」

そうヒューズが答えると、アルフォンスが 興味を惹かれたように
聞き返す。

「へぇ~、ヒューズさんは 何をやってるんですか?」

「おう、よくぞ聞いてくれました。
 俺は、情報部の室長をやってるのさ。」

えっへんと胸をはるヒューズに、兄弟二人が 驚いたように声を上げる。

「情報部~!」

「おっ、おう・・・。」

兄弟の二人が、予想と違う反応を返すのに
ヒューズは やや腰が引ける。

「へぇ~、やっぱり こっちでも情報部なんだな。」

「うん、ってことは 二人は やっぱり、学友なのかな?」

「でも、まだ 結婚してないしさ。
 子供もいないしな。」

「うん、時間軸の動きまでは一緒じゃないんだね。」

兄弟が 話している奇妙な会話を ヒューズは
なんだ?と言う様に ロイの方をみる。

それまで、黙っていたロイが 会話に口を挟む。

「エドワード。
 こっちでもと言ったが、それは 私に最初に話した
 もう一人の自分、ヒューズのという事なのか。」

エドワードとアルフォンスは、ロイの視線を正面から受け止めて
きっぱりと頷く。

「うん、あんた達には信じてもらえないかもしれないけど、
 俺らは、そこのヒューズさんと同じ人間を知ってる。」

「そうか。
 君らは そのもう一人と親しいんだな。」

「ああ・・・、親しかったと思う。」

「かった・・・?」過去形なのを聞き返すと

エドワードは 曇った表情をして、「亡くなったから。」
と小さく呟いた。

ロイは、どうりでヒューズを見たときのエドワードの最初の表情が
まるで泣いているように見えたわけを知った。
多分、エドワードにとって 大切な人だったのだろう。

なら、向こうの私とは どんな関係だったんだろう・・・。


「おいっ、何の話なんだ?」
 一人蚊帳の外に出された形になったヒューズが、
 不貞腐れたようにロイに声をかける。

「いや・・・、私も詳しくはわからない。
 最初にあった時に、エドワードに言われたんだ。
 
 私とは初対面だが、もう一人の私を知っているからと。」

ロイが エドワードに視線を向ける。

「ややこしくしたなら謝る。
 でも、その時に言ったように あんたらが気にする事じゃない。
 
 言っても、きっと信じられないと思うし。」

そう言って、俯くエドワードの横で
アルフォンスが 申し訳なさそうに 微笑む。

不思議な感じのする 兄弟二人を見ながら、
ヒューズは 困惑する。

『どうも、嫌な感じがするな・・・。
 この兄弟は、どうも 普通の匂いがしない。

 まるで、この世界には存在しないような空気を纏ってる。

 ロイが あんまり必死なんで探していたが、
 本当は 探さないほうが、
 こいつに逢わせない方が良かったんじゃないのか。』

ヒューズの不安は、その後のエドワードの言葉で解消された。

「それに 俺ら、1週間後にはアメリカに渡るしな。
 あんた達の希望には 添えないと思うから。」

努めて明るく言うエドワードの言葉に、
驚きを示したのは ロイだった。

「アメリカ!?
 何故?
 どうしてだ?」

机に乗り出すような勢いで 矢継ぎ早に問いかけられて
エドワードが あっけにとられたように口をあける。

「えっ、ああ 俺ら目的があって
 その為に手助けしてくれる人がアメリカにいるから・・・。」

エドワードが 口ごもりながら そう告げると、
ロイは さらに追求してくる。

「どんな目的なんだ。
 その人物とは 誰なんだ。」

頭ごなしに 命令口調で投げかけられる質問に
エドワードは ムッとした表情を浮かべる。
ロイの横に座るヒューズも、ロイに落ち着くように声をかけている。

「それは、あんたには関係ない。

 とにかく、会社には入れない。
 そういう事だから。」

エドワードが、これで話は終わりだとばかりに立ち上がり
ロイ達に帰る事を促そうと、扉を開けに行こうとテーブルを横切る時に
ロイは 咄嗟に、エドワードの手を掴む。

「君は いつも そう言って拒否をする。

 何故、最初から わからないと決め付けるんだ。
 話をされなければ、わからなくて当たり前だ。
 
 最初から拒否をするのは、フェアーじゃないだろう。」

ロイの剣幕に驚いたエドワードが、掴まれた手を乱暴に振り解く。

「あんたらに何がわかるんだ!
 話して拒否される気持ちが、あんたらにわかるか。

 どうせ、信じられない話なんだ。
 聞かないほうが、お互いの為なんだよ。」

エドワードは そう言い放つと、
出口とは別にある 自分の部屋に飛び込んでしまった。

ロイは エドワードが 閉めてしまった扉を悄然と眺める。
ヒューズは、そのロイの肩に手を置いて声をかける。

「ロイ、取り合えず今日は戻ろう。
 
 お前ら どっちも熱くなりすぎだ。
 少し頭を冷やした方がいい。」

ヒューズに促されて、渋々 席を立ち上がり、
ロイは 部屋を出て行こうと歩き出す。

部屋を出る寸前に、エドワードが閉じこもった部屋に向かって
声を上げる。

「エドワード、私はあきらめない。
 話を聞かせてもらって、私が納得できるまでは
 何度も 来させてもらうからな!」

言って、足早にさるふたつの靴音が部屋の外に消えていく。
アルフォンスは 窓から、去って行く車影を見ながら
深いため息を吐く。

「あいつら、帰ったか?」

しばらくして、少しだけ開かれた扉から 窺うようにエドワードが聞いてくる。

「うん、車も帰っちゃったよ。」

「そうか・・・。」

エドワードは、ぼんやりと部屋を見回す。

そして、静かに扉をしめると 中からは何も聞こえなくなった。

アルフォンスは、そんな兄の様子を気にしながらも
ふと、今あった事を思い出す。

アルフォンスには、軍に居た頃の記憶はない。
だから、ロイの事は 数度見かけた知り合いで、
ヒューズに至っては写真でしか知らない。

だから、この世界で同様の人物に合うと 驚きはするが、
それは、関心の域を出ない程度だ。

だが、エドワードは違う。
軍と深く関係し、ロイとは 長い付き合いをした関係だ。
ケンカばかりしていたようだが、
二人が 互いにしかわからない絆を持っていた事は
皆の話し振りからも、兄の態度からも うすうす気づいてもいた。
そして、ヒューズ少佐は・・・・。
全く違う人間だと 簡単には割り切れないものも多いのだろう。

アルフォンスは、再度 深いため息を吐きながら
暗闇が深くなっていく 外の町並みを見る。
できれば これ以上、兄が傷つきませんようにと願いながら。




[あとがき]
ロイエド、ミュンヘン編は 捏造しまくりです。
話の流れの都合上、色々と設定を変えまくっています。
鋼ファンの皆様、申し訳有りません!



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